村田沙耶香「変半身」感想
これで「カワリミ」って読むのは昨今のキラキラネームと同じくらいアグレッシブな読みだと思うんです。光宙でピカチュウ的な。まあ変身に対しての変半身って感じでわざわざ「半身」にしてるのにも意味が何かしらあるのでしょうか。「変身」と聞くと反射的にカフカの「変身」が出てくるんですけど、多分少し意識してるんですかね?帯にも「人類は変態する」って書いてありますし。
村田沙耶香さんの本に共通してるのはある種の変態性だとは思うんですけど、その変態性が何かって「異質な日常」ってヤツですよね。僕らの日常とは明らかに異なっている価値観なり文化なりが物語の中では常識として扱われている。そこに気持ち悪さを感じると同時に今の僕らの日常の気持ち悪さを感じてしまうと言った形の。
村田沙耶香さんはコメントで、『この小説を書いたことで、「人間」が何なのかわからなくなりました。』と言ってましたが今回の変態性の中心、異質の中心はここにあると思います。僕はそういう「根本にある大前提が崩れていく」みたいな話はスコスコのスコなのでわからなくなっていく感覚を楽しみながら読めました。変態性の波長があってるんですかね?
ただ今回の「変半身」に関してはその変態性がちょっと薄かったかなと思います。どちらかというと星新一のショートショート的などんでん返しのインパクトがありました。人間が人間であると証明してくれるモノ、根底にあるモノをぶっ壊してぶっ壊してぶっ壊した結果現れたモノとは……みたいな感じ。帯の煽りが
『人類は変態する』
『ニンゲンを脱ぎ捨てろ』
『新たな人類のための異形の創世記(ジェネシス)』
とか書かれてるんですけど、読み終わったあとに初めてこの意味がしっくり来ました。こういう読み終わった後に全部伏線も回収されて理解できるって本は好きな人には最高に気持ちいい本ですよね。僕は大好きです。と言うかこの帯の言葉考えた人最高ですね。人生一度でいいから異形のジェネシスとか言ってみたい。
「変半身」は今までの『コンビニ人間』や『生命式』とはまた少し変わった趣向にはなってますが読んでて思考がグルグル巡っていくような面白い本です。是非読んでみてください。
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